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72個のLEDを搭載した精密腕時計の設計:JLCPCBのSMT実装で製作する直径40 mmの円形PCB

初出公開日 Oct 09, 2026, 更新日 Oct 09, 2026

2 min

目次
  • 開発の背景と目的
  • システム構成と部品選定
  • PCBレイアウトとウェアラブル機器のDFM
  • JLCPCBとLCSCを活用した一括基板実装
  • 組み立て・ファームウェア・ケースへの組み込み
  • ファームウェアの最適化とLEDの多重化駆動
  • 製作を通じて得られた経験
  • 72個のLEDを搭載した腕時計についてのFAQ

要点

本事例では、直径40 mmの円形PCBを用いた72個のLEDを搭載する腕時計の設計と製作を紹介します。JLCPCBのSMT実装サービスによって70個以上の0603サイズLEDの手はんだ付けを省き、ENIG表面処理で実装に適した平坦性を確保しました。また、マウスバイト付きの分離タブを使用する面付けにより、円形基板の自動実装に対応しています。EasyEDAでの回路図作成から、ファームウェアの最適化、市販のステンレス製ケースへの組み込みまで、一連の開発工程を解説します。

開発の背景と目的

独自のウェアラブル機器の開発は、電子工作の中でもやりがいがあり、同時に難しい分野です。市販のスマートウォッチがOLEDディスプレイや高性能プロセッサを採用する一方、オープンソースプロジェクトの制作者Taifur氏は、シンプルな構成とすっきりした外観を目指した「LED Round Watch」を開発しました。

72個のLEDを搭載した腕時計のイメージ

基本構想はシンプルですが、実現には工夫が必要でした。72個のSMD LEDを円形に配置し、ATmega328Pマイコンと高精度なリアルタイムクロック(RTC)で制御する腕時計です。

72個のLEDを放射状に配置した回路を腕時計サイズに収めるには、次のような技術的課題がありました。

  • 機構上の制約:市販の時計ケースに収めるため、PCBの直径を40 mm以内に抑える必要がありました。
  • 実装の難しさ:直径40 mmの基板に70個以上の表面実装LEDとTQFP-32パッケージのICを手はんだ付けすると、はんだブリッジ、位置ずれ、熱による部品への負担が生じやすくなります。
  • シンプルな外観:表示面には、目立つピンヘッダー、大きなコネクタ、露出した配線を配置しないことが求められました。

これらの課題に対応するため、Taifur氏はEasyEDAで回路図とPCBレイアウトを作成し、JLCPCBの基板実装(PCBA)サービスを利用して、高密度基板の製造と実装を一括して行いました。

システム構成と部品選定

安定した時刻保持と見やすい表示を実現するため、計時、制御、表示、電源を中心に回路を構成しました。

腕時計の主なハードウェア仕様

主なハードウェア仕様

機能ブロック 使用部品 パッケージ・仕様 役割
メイン制御部 Microchip ATmega328P-AU TQFP-32(端子ピッチ0.8 mm) LEDマトリクスの多重化駆動とI²Cによる時刻読み出し
リアルタイムクロック(RTC) Maxim Integrated DS3231MZ SOIC-8/温度補償MEMS共振子内蔵 計時精度±5 ppm(データシートの規定条件下)
時表示 SMD LED×12個 0603サイズ(インチ呼称、青色) 1~12時の位置で時を表示
分・秒表示 SMD LED×60個 0603サイズ(インチ呼称) 360°のリング状配置で分と秒を表示
電流制限 SMD電流制限抵抗×8個 0603/0805サイズ(実際のBOMで確認) LED電流を制限し、輝度を調整
電源 CR2032コイン形電池(LIR2032の使用には電圧条件の確認が必要) コイン形電池用表面実装ホルダー 基板裏面に配置する小型電源
書き込みインターフェース ポゴピン接続用の露出パッド×6個 2.54 mmピッチの金表面パッド ISPによるファームウェア書き込み

回路設計のポイント

  • メインマイコンATmega328P-AU:豊富な開発情報とスリープ時の低消費電力を重視して選定しました。TQFP-32パッケージにより高さを抑えながら、多重化駆動するLED配列に必要なI/Oを確保できます。
  • 高精度な時刻保持を担うRTC:仕様表に記載されているDS3231MZは、温度補償されたMEMS共振子を内蔵し、規定条件下で±5 ppmの計時精度を持ちます。水晶発振器を内蔵するDS3231とは異なるため、型番ごとの仕様を確認する必要があります。外部の32.768 kHz水晶振動子を追加せずに計時でき、Wi-FiやBluetoothによる時刻同期を行わない腕時計に適した構成です。
  • 円形の72個LEDマトリクス:文字盤には、時表示用の青色0603 LEDを12個、分・秒表示用のSMD LEDを60個配置しています。8個の電流制限抵抗を組み合わせたマトリクスの多重化駆動により、大きな専用LEDドライバICを追加せずに、時・分・秒に対応するLEDを制御します。駆動電流は、LEDとマイコンの定格に合わせて設定する必要があります。

PCBレイアウトとウェアラブル機器のDFM

ウェアラブル機器向けの円形PCBでは、機械的な強度と安定したSMT実装を確保するため、製造性を考慮した設計(DFM)が重要です。

基板両面の部品配置

両面への部品配置

完成品としてのすっきりした外観を得るため、部品の役割に応じて基板の表裏に配置を分けました。

  • 表面(表示面):ATmega328Pマイコン、放射状に配置した72個のLED、8個のSMD電流制限抵抗を搭載します。アナログ時計の文字盤を思わせる、対称的でシンプルな配置です。
  • 裏面(補助回路・電源):RTC、デカップリングコンデンサ、時刻調整用のタクトスイッチ、コイン形電池ホルダー、書き込み用パッドを配置します。

製造仕様とDFMの確認項目

項目 仕様・設定値
基板層数 2層FR-4基板
基板直径 設計値40.0 mm(製造公差を考慮)
基板厚 1.0 mm(時計ケースへの組み込みを考慮)
外層銅厚 1 oz(約35 µm)
表面処理 ENIG(無電解ニッケル/置換金)
ソルダーレジスト色 つや消し黒/濃緑(注文時に選択可能な仕様を確認)
シルク印刷色 視認性の高い白
最小配線幅/最小配線間隔 5 mil/5 mil(各0.127 mm)
最小ビア寸法 穴径0.3 mm/パッド径0.5 mm
基板端から銅箔までの距離 0.3 mm以上(外形加工による銅箔露出などを防ぐための設計値)

ウェアラブル基板でENIGを選ぶ理由

本設計では、一般的なHASL(はんだレベラー)ではなく、ENIG(無電解ニッケル/置換金)を選択しました。主な利点は次の二つです。

  • パッド表面の平坦性:TQFP-32のATmega328Pや0603 LEDなどの部品を、安定して実装しやすくなります。
  • 酸化を抑える表面処理:金層によって、6個の書き込み用パッドなどの露出面を酸化から保護できます。ただし、ENIGだけで汗や皮膚接触への耐食性、防水性を保証するものではなく、ケースによる保護も必要です。

面付けと分離用フレーム(マウスバイト)

直径40 mmの円形基板をそのままSMTラインの搬送機構で扱うのは難しいため、長方形の搬送用フレーム内に配置し、マウスバイト付き分離タブでつなぐ面付け構成を採用しました。

  • マウスバイトの穴寸法:分離タブ部分に、直径0.5 mmの穴を0.8 mmピッチで配置します。円周全体に穴を設けるのではなく、基板とフレームをつなぐ部分に設けます。
  • CNCルーターによる外形加工:直径40 mmの円形外形を加工します。原文では±0.1 mmを設計上の目安としていますが、実際の製造公差は注文仕様で確認が必要です。ケースへのはめ合いには、ケース内径、基板公差、分離タブの残りも考慮します。

JLCPCBとLCSCを活用した一括基板実装

70個以上のSMD部品を使用するプロジェクトでは、手はんだ付けが大きな負担になります。0603 LEDを狭い円形領域に配置して実装すると、位置ずれやはんだブリッジ、過度な加熱によるLEDの損傷が生じるおそれがあります。

JLCPCBのSMT実装工程

JLCPCBの実装サービスを活用する利点

  • LCSCを利用した部品調達:ATmega328P、RTC、0603 LED、抵抗、コンデンサなどをJLCPCB/LCSCの部品ライブラリから選定することで、部品調達と実装をまとめて依頼しやすくなります。在庫と納期は変動するため、発注時の確認が必要です。
  • BOMとCPLの照合:EasyEDAから出力したBOM(部品表)とCPL(部品配置・実装座標データ)をアップロードし、JLCPCBのオンラインプレビューで72個のLEDのフットプリント、配置位置、回転角度を確認します。自動処理後も、極性と向きの目視確認が重要です。
  • 自動光学検査(AOI):実装後は、JLCPCB工場でのAOI検査によって、LEDの立ち上がり(マンハッタン現象)やATmega328Pの端子間ブリッジなどを確認します。AOIは実装不良の検出に有効ですが、動作確認とは異なる検査です。

組み立て・ファームウェア・ケースへの組み込み

実装済み基板が届いた後、次の四つの工程で腕時計を仕上げます。

  1. 搬送用フレームから基板を分離する

    ニッパーなどでマウスバイト付きタブを切り、円形の時計基板を長方形の外枠から分離します。基板や近くの部品に過度な力を加えず、必要に応じてタブの残りを仕上げます。

  2. 6極ポゴピン治具でファームウェアを書き込む

    時計ケース内の高さを確保するため、固定のピンヘッダーははんだ付けせず、基板裏面に6個の接触パッドを配置しました。信号はVCC、GND、RESET、MOSI、MISO、SCKで、ATmega328PのISP書き込み用です。2.54 mmピッチの6極ポゴピン治具を、ISPとして設定したArduino UNOなどの対応プログラマに接続して書き込みます。これらはUART端子ではないため、USB-TTL変換器をそのまま接続して書き込むことはできません。

  3. 電池の取り付けと電源接続

    基板裏面にコイン形電池ホルダーを取り付けます。CR2032は公称3 Vの一次電池で、LIR2032は充電式で電圧条件が異なるため、そのまま互換として扱えません。使用する電池に合わせて回路の電圧条件を確認します。ATmega328Pは設定条件によってスリープ時の消費電流を数µA程度に抑えられますが、実際の電池寿命はRTC、LED、周辺回路の消費電流と表示頻度を含めて評価する必要があります。

  4. ステンレス製ケースに組み込む

    独自の3Dプリントケースは、外観、強度、防水性の確保に工夫が必要です。本プロジェクトでは、市販の40 mmサイズのステンレス製時計ケースを採用しました。厚さ1.0 mmの基板と円形外形をケースの内部寸法に合わせて設計し、完成した基板を組み込んでねじ込み式の裏蓋で固定します。ケースの呼び寸法だけでなく、実際の内径と有効高さを確認することが重要です。

ファームウェアの最適化とLEDの多重化駆動

公開されたArduinoスケッチ(led_round_watch.ino)で、時刻管理とLED表示を制御します。

主なファームウェア機能

  • ボタン操作による表示:電池消費を抑えるため、裏面のタクトスイッチを押すとLEDが順に点灯するアニメーションを表示し、時刻を5秒間表示した後、低消費電力のスリープ状態に戻ります。
  • 時刻設定モード:タクトスイッチを長押しすると設定モードに入り、パソコンに接続せずに時と分を調整できます。

製作を通じて得られた経験

原文では、設計者Taifur氏の製造・実装に関する感想を、次のように紹介しています。

「3Dプリンタで時計ケースを一から製作すると、外観や耐久性の仕上がりが課題になります。市販の40 mmステンレス製ケースを使うことで、完成品らしい外観にできましたが、その分、PCBをケースの寸法条件に合わせて正確に製作する必要がありました。

72個のLEDとATmega328Pを搭載する表面の実装をJLCPCBに依頼したことで、作業が大きく変わりました。70個以上の小さなLEDを手作業ではんだ付けすれば、何時間もかかり、失敗の可能性も高くなります。ENIGの仕上がりも良く、基板は数日で届き、最初の試作から問題なく動作しました!」

72個のLEDを搭載した腕時計についてのFAQ

Q:GPIOの数が限られるATmega328Pで、72個のLEDをどのように制御しますか?

電流制限抵抗を組み合わせたLEDマトリクスの多重化駆動を採用しています。これにより、追加の専用ドライバICを使わず、時表示の12個と分・秒表示の60個のLEDを制御します。マイコンの端子単位・全体の電流定格に適合させる必要があります。

Q:大きなピンヘッダーを実装せずに書き込むにはどうしますか?

基板裏面の6個の金表面パッドに、2.54 mmピッチの6極ポゴピン治具を接触させ、ISP対応プログラマで書き込みます。基板に固定のヘッダーを追加せずに済み、ケース内の高さを確保できます。

Q:このウェアラブル基板でENIGを選ぶ理由は何ですか?

ENIGは、TQFP-32のマイコンなどの表面実装部品に適した平坦なパッド面を形成し、露出した書き込み用パッドの酸化も抑えます。ただし、汗や湿気への保護にはケース設計も必要です。

Q:コイン形電池の寿命はどのくらいで、どのように省電力化していますか?

通常時はマイコンをスリープ状態にし、ボタン操作時だけLEDを5秒間表示して、平均消費電流を抑えます。電池寿命は、表示頻度、LED電流、RTCを含む待機時の消費電流、電池の実効容量によって異なります。マイコン単体のスリープ電流だけから、数か月の動作を保証することはできません。

Q:小さな円形PCBを自動SMTラインで実装するにはどうしますか?

直径40 mmの円形PCBを、マウスバイト付きの分離タブで長方形の搬送用フレームにつないだ状態で製造します。その状態で自動実装を行い、実装後に個片の基板を分離します。

72個のLEDを搭載した腕時計のまとめ

LED Round Watchは、EasyEDAなどの設計ツールとJLCPCBの基板製造・実装サービスを組み合わせた、独自ウェアラブル機器の製作事例です。

高密度のSMT実装をJLCPCBに任せることで、設計者は回路の工夫、ファームウェアの最適化、製品の外観設計に集中できます。複雑な電子工作のアイデアを、実用的なウェアラブル機器として形にするためのアプローチです。

独自のスマートウォッチ、IoTセンサーバッジ、高密度LEDディスプレイなどの製作に、JLCPCBの基板製造とSMT実装サービスをご活用ください。

完成した72個LED搭載の円形腕時計

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