72個のLEDを搭載した精密腕時計の設計:JLCPCBのSMT実装で製作する直径40 mmの円形PCB
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- 開発の背景と目的
- システム構成と部品選定
- PCBレイアウトとウェアラブル機器のDFM
- JLCPCBとLCSCを活用した一括基板実装
- 組み立て・ファームウェア・ケースへの組み込み
- ファームウェアの最適化とLEDの多重化駆動
- 製作を通じて得られた経験
- 72個のLEDを搭載した腕時計についてのFAQ
要点
本事例では、直径40 mmの円形PCBを用いた72個のLEDを搭載する腕時計の設計と製作を紹介します。JLCPCBのSMT実装サービスによって70個以上の0603サイズLEDの手はんだ付けを省き、ENIG表面処理で実装に適した平坦性を確保しました。また、マウスバイト付きの分離タブを使用する面付けにより、円形基板の自動実装に対応しています。EasyEDAでの回路図作成から、ファームウェアの最適化、市販のステンレス製ケースへの組み込みまで、一連の開発工程を解説します。
開発の背景と目的
独自のウェアラブル機器の開発は、電子工作の中でもやりがいがあり、同時に難しい分野です。市販のスマートウォッチがOLEDディスプレイや高性能プロセッサを採用する一方、オープンソースプロジェクトの制作者Taifur氏は、シンプルな構成とすっきりした外観を目指した「LED Round Watch」を開発しました。
基本構想はシンプルですが、実現には工夫が必要でした。72個のSMD LEDを円形に配置し、ATmega328Pマイコンと高精度なリアルタイムクロック(RTC)で制御する腕時計です。
72個のLEDを放射状に配置した回路を腕時計サイズに収めるには、次のような技術的課題がありました。
- 機構上の制約:市販の時計ケースに収めるため、PCBの直径を40 mm以内に抑える必要がありました。
- 実装の難しさ:直径40 mmの基板に70個以上の表面実装LEDとTQFP-32パッケージのICを手はんだ付けすると、はんだブリッジ、位置ずれ、熱による部品への負担が生じやすくなります。
- シンプルな外観:表示面には、目立つピンヘッダー、大きなコネクタ、露出した配線を配置しないことが求められました。
これらの課題に対応するため、Taifur氏はEasyEDAで回路図とPCBレイアウトを作成し、JLCPCBの基板実装(PCBA)サービスを利用して、高密度基板の製造と実装を一括して行いました。
システム構成と部品選定
安定した時刻保持と見やすい表示を実現するため、計時、制御、表示、電源を中心に回路を構成しました。
主なハードウェア仕様
| 機能ブロック | 使用部品 | パッケージ・仕様 | 役割 |
|---|---|---|---|
| メイン制御部 | Microchip ATmega328P-AU | TQFP-32(端子ピッチ0.8 mm) | LEDマトリクスの多重化駆動とI²Cによる時刻読み出し |
| リアルタイムクロック(RTC) | Maxim Integrated DS3231MZ | SOIC-8/温度補償MEMS共振子内蔵 | 計時精度±5 ppm(データシートの規定条件下) |
| 時表示 | SMD LED×12個 | 0603サイズ(インチ呼称、青色) | 1~12時の位置で時を表示 |
| 分・秒表示 | SMD LED×60個 | 0603サイズ(インチ呼称) | 360°のリング状配置で分と秒を表示 |
| 電流制限 | SMD電流制限抵抗×8個 | 0603/0805サイズ(実際のBOMで確認) | LED電流を制限し、輝度を調整 |
| 電源 | CR2032コイン形電池(LIR2032の使用には電圧条件の確認が必要) | コイン形電池用表面実装ホルダー | 基板裏面に配置する小型電源 |
| 書き込みインターフェース | ポゴピン接続用の露出パッド×6個 | 2.54 mmピッチの金表面パッド | ISPによるファームウェア書き込み |
回路設計のポイント
- メインマイコンATmega328P-AU:豊富な開発情報とスリープ時の低消費電力を重視して選定しました。TQFP-32パッケージにより高さを抑えながら、多重化駆動するLED配列に必要なI/Oを確保できます。
- 高精度な時刻保持を担うRTC:仕様表に記載されているDS3231MZは、温度補償されたMEMS共振子を内蔵し、規定条件下で±5 ppmの計時精度を持ちます。水晶発振器を内蔵するDS3231とは異なるため、型番ごとの仕様を確認する必要があります。外部の32.768 kHz水晶振動子を追加せずに計時でき、Wi-FiやBluetoothによる時刻同期を行わない腕時計に適した構成です。
- 円形の72個LEDマトリクス:文字盤には、時表示用の青色0603 LEDを12個、分・秒表示用のSMD LEDを60個配置しています。8個の電流制限抵抗を組み合わせたマトリクスの多重化駆動により、大きな専用LEDドライバICを追加せずに、時・分・秒に対応するLEDを制御します。駆動電流は、LEDとマイコンの定格に合わせて設定する必要があります。
PCBレイアウトとウェアラブル機器のDFM
ウェアラブル機器向けの円形PCBでは、機械的な強度と安定したSMT実装を確保するため、製造性を考慮した設計(DFM)が重要です。
両面への部品配置
完成品としてのすっきりした外観を得るため、部品の役割に応じて基板の表裏に配置を分けました。
- 表面(表示面):ATmega328Pマイコン、放射状に配置した72個のLED、8個のSMD電流制限抵抗を搭載します。アナログ時計の文字盤を思わせる、対称的でシンプルな配置です。
- 裏面(補助回路・電源):RTC、デカップリングコンデンサ、時刻調整用のタクトスイッチ、コイン形電池ホルダー、書き込み用パッドを配置します。
製造仕様とDFMの確認項目
| 項目 | 仕様・設定値 |
|---|---|
| 基板層数 | 2層FR-4基板 |
| 基板直径 | 設計値40.0 mm(製造公差を考慮) |
| 基板厚 | 1.0 mm(時計ケースへの組み込みを考慮) |
| 外層銅厚 | 1 oz(約35 µm) |
| 表面処理 | ENIG(無電解ニッケル/置換金) |
| ソルダーレジスト色 | つや消し黒/濃緑(注文時に選択可能な仕様を確認) |
| シルク印刷色 | 視認性の高い白 |
| 最小配線幅/最小配線間隔 | 5 mil/5 mil(各0.127 mm) |
| 最小ビア寸法 | 穴径0.3 mm/パッド径0.5 mm |
| 基板端から銅箔までの距離 | 0.3 mm以上(外形加工による銅箔露出などを防ぐための設計値) |
ウェアラブル基板でENIGを選ぶ理由
本設計では、一般的なHASL(はんだレベラー)ではなく、ENIG(無電解ニッケル/置換金)を選択しました。主な利点は次の二つです。
- パッド表面の平坦性:TQFP-32のATmega328Pや0603 LEDなどの部品を、安定して実装しやすくなります。
- 酸化を抑える表面処理:金層によって、6個の書き込み用パッドなどの露出面を酸化から保護できます。ただし、ENIGだけで汗や皮膚接触への耐食性、防水性を保証するものではなく、ケースによる保護も必要です。
面付けと分離用フレーム(マウスバイト)
直径40 mmの円形基板をそのままSMTラインの搬送機構で扱うのは難しいため、長方形の搬送用フレーム内に配置し、マウスバイト付き分離タブでつなぐ面付け構成を採用しました。
- マウスバイトの穴寸法:分離タブ部分に、直径0.5 mmの穴を0.8 mmピッチで配置します。円周全体に穴を設けるのではなく、基板とフレームをつなぐ部分に設けます。
- CNCルーターによる外形加工:直径40 mmの円形外形を加工します。原文では±0.1 mmを設計上の目安としていますが、実際の製造公差は注文仕様で確認が必要です。ケースへのはめ合いには、ケース内径、基板公差、分離タブの残りも考慮します。
JLCPCBとLCSCを活用した一括基板実装
70個以上のSMD部品を使用するプロジェクトでは、手はんだ付けが大きな負担になります。0603 LEDを狭い円形領域に配置して実装すると、位置ずれやはんだブリッジ、過度な加熱によるLEDの損傷が生じるおそれがあります。
JLCPCBの実装サービスを活用する利点
- LCSCを利用した部品調達:ATmega328P、RTC、0603 LED、抵抗、コンデンサなどをJLCPCB/LCSCの部品ライブラリから選定することで、部品調達と実装をまとめて依頼しやすくなります。在庫と納期は変動するため、発注時の確認が必要です。
- BOMとCPLの照合:EasyEDAから出力したBOM(部品表)とCPL(部品配置・実装座標データ)をアップロードし、JLCPCBのオンラインプレビューで72個のLEDのフットプリント、配置位置、回転角度を確認します。自動処理後も、極性と向きの目視確認が重要です。
- 自動光学検査(AOI):実装後は、JLCPCB工場でのAOI検査によって、LEDの立ち上がり(マンハッタン現象)やATmega328Pの端子間ブリッジなどを確認します。AOIは実装不良の検出に有効ですが、動作確認とは異なる検査です。
組み立て・ファームウェア・ケースへの組み込み
実装済み基板が届いた後、次の四つの工程で腕時計を仕上げます。
-
搬送用フレームから基板を分離する
ニッパーなどでマウスバイト付きタブを切り、円形の時計基板を長方形の外枠から分離します。基板や近くの部品に過度な力を加えず、必要に応じてタブの残りを仕上げます。
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6極ポゴピン治具でファームウェアを書き込む
時計ケース内の高さを確保するため、固定のピンヘッダーははんだ付けせず、基板裏面に6個の接触パッドを配置しました。信号はVCC、GND、RESET、MOSI、MISO、SCKで、ATmega328PのISP書き込み用です。2.54 mmピッチの6極ポゴピン治具を、ISPとして設定したArduino UNOなどの対応プログラマに接続して書き込みます。これらはUART端子ではないため、USB-TTL変換器をそのまま接続して書き込むことはできません。
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電池の取り付けと電源接続
基板裏面にコイン形電池ホルダーを取り付けます。CR2032は公称3 Vの一次電池で、LIR2032は充電式で電圧条件が異なるため、そのまま互換として扱えません。使用する電池に合わせて回路の電圧条件を確認します。ATmega328Pは設定条件によってスリープ時の消費電流を数µA程度に抑えられますが、実際の電池寿命はRTC、LED、周辺回路の消費電流と表示頻度を含めて評価する必要があります。
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ステンレス製ケースに組み込む
独自の3Dプリントケースは、外観、強度、防水性の確保に工夫が必要です。本プロジェクトでは、市販の40 mmサイズのステンレス製時計ケースを採用しました。厚さ1.0 mmの基板と円形外形をケースの内部寸法に合わせて設計し、完成した基板を組み込んでねじ込み式の裏蓋で固定します。ケースの呼び寸法だけでなく、実際の内径と有効高さを確認することが重要です。
ファームウェアの最適化とLEDの多重化駆動
公開されたArduinoスケッチ(led_round_watch.ino)で、時刻管理とLED表示を制御します。
主なファームウェア機能
- ボタン操作による表示:電池消費を抑えるため、裏面のタクトスイッチを押すとLEDが順に点灯するアニメーションを表示し、時刻を5秒間表示した後、低消費電力のスリープ状態に戻ります。
- 時刻設定モード:タクトスイッチを長押しすると設定モードに入り、パソコンに接続せずに時と分を調整できます。
製作を通じて得られた経験
原文では、設計者Taifur氏の製造・実装に関する感想を、次のように紹介しています。
「3Dプリンタで時計ケースを一から製作すると、外観や耐久性の仕上がりが課題になります。市販の40 mmステンレス製ケースを使うことで、完成品らしい外観にできましたが、その分、PCBをケースの寸法条件に合わせて正確に製作する必要がありました。
72個のLEDとATmega328Pを搭載する表面の実装をJLCPCBに依頼したことで、作業が大きく変わりました。70個以上の小さなLEDを手作業ではんだ付けすれば、何時間もかかり、失敗の可能性も高くなります。ENIGの仕上がりも良く、基板は数日で届き、最初の試作から問題なく動作しました!」
72個のLEDを搭載した腕時計についてのFAQ
Q:GPIOの数が限られるATmega328Pで、72個のLEDをどのように制御しますか?
電流制限抵抗を組み合わせたLEDマトリクスの多重化駆動を採用しています。これにより、追加の専用ドライバICを使わず、時表示の12個と分・秒表示の60個のLEDを制御します。マイコンの端子単位・全体の電流定格に適合させる必要があります。
Q:大きなピンヘッダーを実装せずに書き込むにはどうしますか?
基板裏面の6個の金表面パッドに、2.54 mmピッチの6極ポゴピン治具を接触させ、ISP対応プログラマで書き込みます。基板に固定のヘッダーを追加せずに済み、ケース内の高さを確保できます。
Q:このウェアラブル基板でENIGを選ぶ理由は何ですか?
ENIGは、TQFP-32のマイコンなどの表面実装部品に適した平坦なパッド面を形成し、露出した書き込み用パッドの酸化も抑えます。ただし、汗や湿気への保護にはケース設計も必要です。
Q:コイン形電池の寿命はどのくらいで、どのように省電力化していますか?
通常時はマイコンをスリープ状態にし、ボタン操作時だけLEDを5秒間表示して、平均消費電流を抑えます。電池寿命は、表示頻度、LED電流、RTCを含む待機時の消費電流、電池の実効容量によって異なります。マイコン単体のスリープ電流だけから、数か月の動作を保証することはできません。
Q:小さな円形PCBを自動SMTラインで実装するにはどうしますか?
直径40 mmの円形PCBを、マウスバイト付きの分離タブで長方形の搬送用フレームにつないだ状態で製造します。その状態で自動実装を行い、実装後に個片の基板を分離します。
72個のLEDを搭載した腕時計のまとめ
LED Round Watchは、EasyEDAなどの設計ツールとJLCPCBの基板製造・実装サービスを組み合わせた、独自ウェアラブル機器の製作事例です。
高密度のSMT実装をJLCPCBに任せることで、設計者は回路の工夫、ファームウェアの最適化、製品の外観設計に集中できます。複雑な電子工作のアイデアを、実用的なウェアラブル機器として形にするためのアプローチです。
独自のスマートウォッチ、IoTセンサーバッジ、高密度LEDディスプレイなどの製作に、JLCPCBの基板製造とSMT実装サービスをご活用ください。
OSHWLabのプロジェクトファイルを確認し、ガーバーデータやBOMをダウンロードして、自分の製作に挑戦してみましょう。JLCPCBで基板を製造し、画面上の設計が実物になる楽しさを体験してください。
学び続ける
72個のLEDを搭載した精密腕時計の設計:JLCPCBのSMT実装で製作する直径40 mmの円形PCB
要点 本事例では、直径40 mmの円形PCBを用いた72個のLEDを搭載する腕時計の設計と製作を紹介します。JLCPCBのSMT実装サービスによって70個以上の0603サイズLEDの手はんだ付けを省き、ENIG表面処理で実装に適した平坦性を確保しました。また、マウスバイト付きの分離タブを使用する面付けにより、円形基板の自動実装に対応しています。EasyEDAでの回路図作成から、ファームウェアの最適化、市販のステンレス製ケースへの組み込みまで、一連の開発工程を解説します。 開発の背景と目的 独自のウェアラブル機器の開発は、電子工作の中でもやりがいがあり、同時に難しい分野です。市販のスマートウォッチがOLEDディスプレイや高性能プロセッサを採用する一方、オープンソースプロジェクトの制作者Taifur氏は、シンプルな構成とすっきりした外観を目指した「LED Round Watch」を開発しました。 基本構想はシンプルですが、実現には工夫が必要でした。72個のSMD LEDを円形に配置し、ATmega328Pマイコンと高精度なリアルタイムクロック(RTC)で制御する腕時計です。 72個のLEDを放射状に配......
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