アナログ数学?OPAMP 101 シリーズへようこそ
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アナログ数学?
そう、それこそがこの OPAMP 101 シリーズで学んでいくテーマです。
オペアンプ(Operational Amplifier:Op-Amp)は、アナログ回路において最も一般的で、最も広く使われているコンポーネントのひとつです。アンプなしの集積回路を想像することはほぼ不可能でしょう。
一方で、多くの学生にとってオペアンプは「愛憎入り混じる存在」でもあります。
「ただの三角形に見えるのに、なぜこんなにややこしいの?」
そんな疑問を持ったことがある人も多いはずです。
実はオペアンプは、さまざまな数学的演算を実行できます。これらの応用については、同じ OPAMP 101 シリーズの次回記事で詳しく見ていきます。
基本を理解してしまえば、オペアンプは怖い存在ではなく、アナログ設計における最高の相棒になります。PCB レイアウト、組み込みハードウェア、センサーインターフェースなど、どんな分野でもオペアンプは登場します。
本記事では、実際のアナログ電子回路に焦点を当て、
- 理想特性と実際の挙動の違い
- 仮想グラウンドの考え方
- 負帰還の役割
- すべてのエンジニアが知っておくべき基本構成
について解説します。
オペアンプ(Op-Amp)とは?
オペアンプとは、高利得の差動増幅器で、2つの入力と1つの出力を持ちます。
2つの入力端子の電圧差を比較し、その差に比例した信号を出力します。
差動増幅を行う理由は、ノイズを打ち消し、SNR(信号対雑音比)を向上させるためです。
基本的なオペアンプには、以下の端子があります。
- 反転入力(–)
- 非反転入力(+)
- 出力(通常はシングルエンド、先進的な設計では差動出力)
- 電源端子(VDD、VSS、または GND)
一般的にオペアンプは**両電源(デュアル電源)**で動作します。
例えば VDD が +5V の場合、VSS は –5V となります。このとき、**仮想グラウンド(センター電位)**が必要になります。
この仮想グラウンドは、トランスを使った回路や抵抗分圧回路によって作られます。
では、なぜセンター電位が必要なのでしょうか?
それは AC 信号を正しくバイアスするためです。AC 信号は正負に振れるため、信号をセンター電位に重ねることで、入力電圧を動作範囲内に保つことができます。
なぜオペアンプを使うのか?
オペアンプは、万能なビルディングブロックのような存在です。
- 微小信号の増幅(マイク信号をスピーカーレベルへ)
- 四則演算(加算、減算、積分、微分)
- アナログフィルタや発振器の構成
- コンパレータ、ADC/DAC のフロントエンド
- PCB のアナログ・フロントエンドでのセンサー接続
つまり、PCB 設計でアナログ信号を扱うなら、オペアンプは信号処理の中心的存在となります。
オペアンプの主な特性
オペアンプを理解するために、以下の主要パラメータを押さえておきましょう。
- 入力インピーダンス 理想的には無限大で、信号源に負荷をかけません。実際には MΩ〜GΩ 程度です。
- 出力インピーダンス 理想は 0Ω。実際には数十Ω程度で、最大電力伝送条件では負荷インピーダンスと同程度になります。
- 開ループ利得(AOL) 非常に大きく(100,000以上)、理想的には無限大。
- 帯域幅 & ゲイン帯域幅積(GBW) 周波数領域で重要な特性で、利得と帯域幅はトレードオフの関係にあります。
- 同相除去比(CMRR) 両入力に共通して現れるノイズをどれだけ除去できるか。
- スルーレート 出力電圧の最大変化速度(V/µs)。高利得・高速オペアンプでは特に重要です。
理想オペアンプと実際のオペアンプ

理想オペアンプは魅力的に聞こえますが、現実世界には存在しません。
なぜなら、物理法則がそれを許さないからです。
ノイズ、寄生要素、トランジスタの限界、熱特性などが完全性を妨げます。
電子回路では、ある特性を改善すると、別の特性が犠牲になるのが常です。
だからこそ、設計者の役割が重要になります。
オペアンプは用途に応じて設計・選定され、トレードオフを理解した上で使う必要があります。
負帰還の重要性
負帰還がない状態では、オペアンプは単なるコンパレータとして動作し、出力は VDD か VSS にすぐに飽和してしまいます。
非常に大きな開ループ利得のため、わずかな入力差でも出力は電源レールに張り付きます。
そこで出力の一部を反転入力に戻すことで、オペアンプを「制御」します。
- 入力間の電圧差がほぼゼロになるように出力を調整
- 抵抗2本だけで、安定した正確な利得を実現
これが負帰還の本質です。
仮想グラウンド(Virtual Ground)
初心者が最も混乱しやすい概念のひとつが仮想グラウンドです。
実際には存在しないものですが、回路解析を簡単にするための考え方です。
以下の条件が満たされるときに成立します。
- 負帰還がかかっている
- オペアンプの利得が非常に大きい
- 出力が飽和していない
この状態では、オペアンプは反転入力(–)と非反転入力(+)の電圧を等しくしようとします。
もし非反転入力が GND に接続されていれば、反転入力もほぼ GND 電位になります。
ただし、物理的に GND には接続されていません。
だから「仮想」グラウンドと呼ばれます。
- グラウンドのように振る舞う
- しかし実際の GND ではない
基本的な負帰還アンプ構成
基礎を理解したところで、すべてのエンジニアが知っておくべき代表的な構成を見ていきましょう。
1. 反転増幅器(Inverting Amplifier)

入力信号を抵抗 Rin を介して反転入力(–)に加えます。
非反転入力(+)は GND に接続し、出力は抵抗 Rf を通してフィードバックされます。
利得:
Av = −Rf / Rin
マイナス符号は、出力が 180° 反転することを意味します。
2. 非反転増幅器(Non-Inverting Amplifier)
入力信号を非反転入力(+)に加え、反転入力(–)でフィードバックを行います。

利得:
Av = 1 + Rf / Rin
位相反転はなく、センサー回路のバッファや増幅段として広く使われます。
アンプ回路の設計が完成したら、そのまま PCB レイアウトに落とし込み、JLCPCB で簡単に試作基板を注文することも可能です。

まとめ
これで OPAMP 101 の基礎編は完了です。
- オペアンプとは何か
- なぜ PCB 設計で広く使われるのか
- 理想モデルと実際の違い
- 仮想グラウンドと負帰還
- 基本的な増幅回路構成
を一通り押さえました。
オーディオ回路での信号合成、センサー出力の増幅、ADC 用の信号調整など、あらゆる場面でオペアンプは活躍します。
理想的なオペアンプは存在しません。
それでもエンジニアがオペアンプを愛する理由は、実用上は理想に十分近い性能を発揮してくれるからです。
次回の記事では、さらに多くの構成や応用例を紹介していきます。
お楽しみに。
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