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多層基板における開発背景及び応用領域

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多層基板における開発背景及び応用領域

Oct 27, 2024

1.多層基板の開発経緯および構成

 多層基板は、複雑化する電子機器のニーズに応えるために開発された技術です。従来の片面基板や両面基板では、配線の密度や複雑さに限界がありましたが、電子機器の高機能化や小型化が進む中で、より多くの配線層を持つ基板が必要とされました。これにより、1960年代後半から1970年代にかけて、多層基板(MultilayerPCB)が登場しました。


図1 JLCPCBの製品イメージ図

 多層基板の基本的な構成は、複数の絶縁層の間に導電性の銅箔層を挟んだ構造で、一般的には3層以上の配線層を持ちます。これにより、電源、信号、グラウンドなどの異なる回路を層ごとに分離でき、回路設計の自由度が大幅に向上しました。多層基板は、配線を複数の層に分けることで、高密度化を実現し、基板の小型化や高性能化に貢献しています。

技術要件

1.ビアホール技術:多層基板では、層間を接続するビアホール(貫通ビア、ブラインドビア、バリードビア)が重要な役割を果たします。これらは、配線層間の電気的接続を担い、精密な加工技術が必要です。

2.絶縁性と誘電率:各層の絶縁性を確保するため、絶縁材料の選定が重要です。また、高周波信号を扱う場合には、誘電率の低い材料が求められます。

3.積層技術:多層基板では、複数の層を正確に積み重ねる技術が求められます。層間のずれを最小限に抑えることが、基板の信号品質や性能に直結します。

4.熱管理:層数が増えることで、基板内部の熱が溜まりやすくなるため、熱を効率的に逃がすための設計が必要です。特に高性能な電子機器では、熱管理が重要な課題となります。

2.多層基板の設計技術および応用領域

 多層基板の設計には、高度な技術と専門的な知識が必要です。各層の役割を明確に分け、信号干渉を防ぐために、層間の配置や配線パターンを最適化することが求められます。例えば、電源層とグラウンド層を隣接させることで、信号のリターンパスを短くし、ノイズを減らすことができます。また、インピーダンス制御も重要な設計技術の一つです。高周波信号を扱う場合、配線の特性インピーダンスを正確に設計することで、信号損失を最小限に抑えることができます。

応用領域

 多層基板は、その高密度で高機能な特性から、様々な分野で広く応用されています。特に以下の分野で重要な役割を果たしています。

1.通信機器:5GやWi-Fi6などの高周波通信を支える基板設計において、多層基板は不可欠です。これらのシステムでは、信号の高速伝送と低ノイズが求められ、多層基板のインピーダンス制御やノイズ抑制技術が大きく寄与します。

2.自動車産業:自動運転技術や電気自動車において、制御システムや電源管理システムの高機能化が進んでいます。多層基板は、これらの複雑な回路を小型にまとめ、耐熱性や耐振動性を持たせるために重要です。

3.医療機器:超音波診断装置やMRIなどの高精度な医療機器にも多層基板が利用されており、信号の正確な処理やデータの高速伝送に貢献しています。

3.多層基板の今後の技術発展方向

 多層基板技術は、さらに高度化しつつあります。今後の発展方向としては、次のようなトレンドが考えられます。

1.HDI基板(高密度配線基板):これまでの多層基板に比べて、さらに高密度で配線できるHDI基板が注目されています。HDI基板は、微細なビアと狭ピッチの配線を採用し、配線密度を大幅に向上させる技術です。特にスマートフォンやウェアラブルデバイスなど、極めて小型な製品に適しています。

2.高速・高周波対応:5G通信や自動運転、IoTデバイスなど、高速通信を必要とする分野では、より低損失で高周波に対応する基板材料や設計が求められています。これに伴い、誘電率の低い材料の研究や、ノイズを最小限に抑えるための積層技術がさらに進化するでしょう。

3.多層フレキシブル基板:フレキシブル基板の技術を多層化することで、より自由な形状や動的な環境に対応できる基板が開発されつつあります。これにより、電子機器の設計における自由度が格段に上がり、例えばウェアラブル技術や折りたたみスマートフォンの分野での応用が期待されています。

4.AI・自動化技術:AIや機械学習を活用した基板設計の自動化が進んでいます。これにより、設計者の負担が軽減され、短期間での開発が可能になります。また、シミュレーション技術の向上により、設計段階での不具合を早期に発見し、修正することができるため、コスト削減にもつながります。


4.考察とまとめ

 多層基板は、電子機器の高密度化、高機能化、小型化に不可欠な技術であり、通信機器、自動車、医療機器といった幅広い分野でその応用が進んでいます。技術的には、ビア技術、インピーダンス制御、ノイズ抑制などが重要な課題であり、今後はHDI基板や高速通信対応の材料技術がさらに発展するでしょう。

 また、AIや自動化技術の導入により、設計プロセスの効率化が進み、より高度な基板設計が短期間で行えるようになることが期待されます。多層基板の技術進化は、電子機器のさらなる発展を支える鍵となり、今後も重要な役割を果たし続けるでしょう。